毎日、臨床が終わった後にヘトヘトになりながら机に向かうあなたへ。
教科書を開き、重要な箇所にマーカーを引き、綺麗な字で「勉強ノート」をまとめる。
「よし、これで明日は大丈夫だ」
そう思って眠りについたはずなのに……翌日の臨床現場で、こんな経験をしていませんか?
- 昨日あんなに勉強したのに、患者さんの前で頭が真っ白になる
- 先輩の「で、どうするの?」という質問に答えられず黙り込む
- 毎日ノートを作っているのに、臨床力が上がっている気がしない
もし一つでも当てはまるなら、はっきりお伝えします。
あなたが臨床で「勉強についていけない」と感じるのは、あなたの能力が低いからでも、努力が足りないからでもありません。
その原因はたった一つ。 あなたのノートの作り方が「学生時代のまま(暗記用)」で止まっているからです。
この本記事では、単なる「ノートの書き方」にとどまらず、iPadやアプリといったデジタルツールと、現場の「アナログメモ」を組み合わせた、管理職の私も実践している「臨床で勝てる知識管理術」をすべてお伝えします。
- 「情報の墓場」になっていたノートが、「第2の脳」に生まれ変わる
- 臨床中の「メモ」から「電子カルテ」までの黄金ルートがわかる
- iPad・アプリの現場で使える活用法がわかる
「勉強内容」をきれいにまとめるだけの自己満足は、今日で卒業しましょう。
明日からの臨床が劇的に変わる「思考整理術」を学び、実践していきましょう。
なぜ、あなたの「勉強ノート」は臨床で役に立たないのか
真面目な新人ほど、ある一つの「大きな勘違い」をしています。
それは、「勉強=教科書の内容を綺麗にノートにまとめること」だと思い込んでいることです。
なぜ、あなたが睡眠時間を削って作ったノートが、いざという時に役に立たないのか。
まずはその理由と、プロとして知っておくべき「脳の仕組み」について解説します。
「インプット」を目的にするな。脳のメモリは「思考」に使え
臨床現場において、私たちの脳は常にフル回転しています。
- 患者さんの動作観察
- 転倒などのリスク管理
- 次のリハビリプログラムの立案
- 看護師やドクターとの連携
正直に言えば、脳の作業領域(RAM)は常にパンク寸前です。
多くの新人が「勉強についていけない」と嘆く最大の原因は、このパンク寸前の脳に、さらに膨大な知識の「暗記」まで詰め込もうとしているからです。
はっきり言いますが、人間の脳は「記憶(ストレージ)」には向いていません。
PTLab運営できるセラピストは、脳の使い方を完全に変えています。




あなたのノートが役に立たないのは、ノートを「書いたことで満足して終わる場所」にしているからです。
ノートの本来の役割は、あなたの脳の代わりを務める「外部記憶装置」でなければなりません。
「教科書の書き写し」は時間の無駄
私が新人のノートを見て、最も頻繁にする指摘があります。
「その解剖図、時間をかけて手書きする意味ある?」
教科書や参考書に書いてあることを、そのままノートに書き写す「写経」のような勉強。
これは、臨床力向上には「1ミリも」寄与しません。
書き写すのではなく「常にデスクに置いておくべき」信頼できる参考書とは何か?
私が厳選したバイブルは、こちらの記事で紹介しています


- 既に存在している:
- 世界中の専門家が作った、最も見やすく正確な図や文章が教科書にある。
- 時間がかかりすぎる:
- その時間で、論文を1本読むか、症例検討をした方がいい。
- 思考していない:
- 手を動かすだけの「作業」になりがち。
あなたがノートに書くべきことは、教科書の事実ではなく、臨床で感じた「疑問」と、それに対する自分なりの「仮説(Assessment)」だけです。


学生とプロの決定的な違いは「検索速度」にある
学生時代のノートと、プロのノート。
決定的な違いは「いつ使うか」というゴール設定にあります。





「あれ? 3ヶ月前に担当した大腿骨頸部骨折の方の、あのアプローチ、どのノートに書いたっけ?」
こうなった瞬間、その知識は死んだも同然です。
臨床現場では、患者さんの前でページをパラパラとめくって探す時間などありません。
断言しますが、 「検索できない知識は、持っていないのと同じ」です。
だからこそ、私たちは紙の「書き心地(思考の瞬発力)」を活かしつつも、最終的な知識の管理は「検索可能なデジタル」へと移行しなければならないのです。
臨床のリアルは「メモ」と「電子カルテ」にあり



デジタル管理が大事なのはわかったけど、患者さんのリハビリ中にiPadなんて開いてられません!
その通り、 臨床現場は戦場です。
移乗介助をし、歩行訓練をし、リスク管理をしている最中に、悠長にタブレットを操作する暇も場所もありません。
だからこそ、私たちは「現場(アナログ)」と「管理(デジタル)」を明確に使い分ける必要があります。
私が実践している、「絶対に情報を漏らさない」ための現場の立ち回り方を伝授します。
タブレット禁止区域での戦い方:「メモ帳」をバッファにする
臨床中、あなたのポケットに入っている「小さなメモ帳」。
これが、あなたの最強の武器です。
ただし、このメモ帳は、情報を保存する場所ではありません。
脳から溢れそうになった情報を一時的に避難させる「バッファ(一時置き場)」です。


疑問に思ったこと、先輩に指摘されたことは、その場でメモに書き殴ってください。
電子カルテ入力時間を「知識の構造化」タイムに変える
多くの理学療法士が見落としている「宝の山」があります。
それが「電子カルテ」です。
あなたは毎日のカルテ記載を、「ただの業務報告」としてコピペで済ませていませんか?
カルテの「A(Assessment:考察)」欄こそが、あなたのアウトプット能力を鍛える最高の練習場です。


こうすることで、業務時間がそのまま「質の高い症例集作り」の時間に変わります。
もし、「考察を書こうとしても言葉が出てこない」「先輩にいつも文章を直される」と悩んでいるなら、一度「文章の書き方」の基本を見直してみてください。臨床推論を言語化するコツを解説しています。


隙間時間(移動・トイレ)のスマホ活用術
臨床現場では、iPadを開く時間はなくても、「スマホ」を触る数分の隙間時間は必ずあります。
- エレベーターの待ち時間
- トイレ休憩
- 昼休みの残り5分
この数分を「思考の鮮度」を保つ時間に使うことで、1年後の臨床力に雲泥の差がつきます。
- 音声入力:
- ふと思いついたアイデアや疑問を、スマホのメモアプリに音声で吹き込む(フリック入力より圧倒的に早い)。
- 写真撮影(許可が必要な場合を除く):
- 自分の手書きメモや、ホワイトボードの共有事項を撮影してデジタル化する。



これが現場での悩みを即勉強に活かす最強テクニックです


アナログ情報を「第2の脳」へ昇華させるデジタルツール
デジタルツール選びで迷子になっているあなたへ、最初に「結論」をお伝えします。
目指すべきゴールは、【Obsidian(オブシディアン)】アプリを使って、あなたの臨床知識をリンクさせた「第2の脳」を構築すること。



「知識管理やノートアプリで有名な、NotionやGoodNotesは要らないの?」
いいえ、必要です。ただし、主役ではありません。
これらは、Obsidianという「脳」に、良質な情報を送り届けるための「手足」であり「倉庫」に過ぎません。
- Obsidian: 脳(思考・リンク・統合)
- Notion: 倉庫(資料保管・データベース)
- GoodNotes: 手(手書き・図解作成)リスト
私が様々なアプリを使い倒した上で構築した、最強の知識管理エコシステムの内訳を解説します。


【Obsidian】すべてはここに集約する「司令塔」
まず、ゴールの話からしましょう。
私が「医療知識の管理において最強」だと確信しているツール。
Obsidian(オブシディアン)です。
なぜ、Obsidianが頂点なのか?
それは、人体の構造と同じく、知識を「ネットワーク(網の目)」として管理できるツールだからです。
従来のフォルダ管理では、「大腿骨頸部骨折」の情報は一箇所にしか置けませんでした。


- 従来のツール(フォルダ型): 情報を一箇所にしか置けない。関連性が断たれる。
- Obsidian(リンク型): 「双方向リンク」によって、知識と知識を網の目のように繋ぐことができる。
Obsidianなら「双方向リンク」機能により、一つのページから「中殿筋」「認知症」「転倒リスク」「TKA」といった関連ページへ、まるで脳の神経回路のように知識を繋ぐことができます。
「検索する前に、知識の方から繋がってくる」 この感覚を手に入れることこそが、デジタル管理の最終目的です。
【Notion】は「巨大な倉庫」として使う
「データベース」を作らせたら右に出るものはいない、データ管理界の神アプリ。


Notionは非常に便利なツールですが、臨床推論のための「思考ツール」としては、少し動作が重すぎます。
Obsidian(脳)をスッキリ保つための「巨大な倉庫」として使います。
ちなみに、Notionに保存する資料が増えすぎて困っているなら、参加する勉強会自体を見直す時期かもしれません。
「行かない勇気」を持つことも、立派な戦略です。


- 役割:
- 勉強会のPDF資料、とりあえずクリップしたWeb記事、学会のスケジュール管理。
- 連携:
- 「いつか読むかも」という重たいデータはNotionに放り込み、Obsidian側には「Notionのページリンク(URL)」だけを貼っておきます。
- メリット:
- 表形式(データベース)での管理が強力。見た目が綺麗で整理したくなる。
- デメリット:
- 動作が重くなりがち。オフラインで弱い。「思考をつなぐ」ことよりも「階層分け(フォルダ整理)」になりがち。
Notionは「情報の母艦(倉庫)」にしてください。
PDFファイルや、Web記事のクリップなど、「いつか使うかもしれない資料」はすべてここに保管します。
【GoodNotes 6】脳に送るための「素材」を作る場所
iPadを持っているなら、間違いなく入れているであろうノート界の神アプリ。


しかし、これを「知識の保管場所」にしてはいけません。
- 役割:
- 教科書への書き込み、解剖図のトレース、患者説明用の図解。
- 連携:
- 綺麗に描けた図やメモは、スクリーンショットを撮って「画像」としてObsidianに貼り付けます。
- メリット:
- Apple Pencilでの手書き体験が最高。図解やイラストを描くのに最適。
- デメリット:
- 検索性が弱い(手書き文字検索は精度に限界がある)。情報が「ノートブック」の中に閉じ込められ、知識同士がリンクしない。
GoodNotesは、「教科書への書き込み」や「患者説明用の図解作成」に使ってください。
管理職の私が実践する「知識循環ワークフロー」
ツールを揃えても、使いこなす「習慣」がなければ意味がありません。
しかし、気負う必要はなく、やるべきことはシンプルです。


この3ステップを回すだけで、あなたの臨床力は勝手に積み上がっていきます。
朝:前日の「振り返り」と今日の「テーマ」設定
朝、出勤してパソコン(またはスマホ)を開いたら、まずObsidianの「デイリーノート(今日の日付のページ)」を作ります。
そこに書くのは、たった3行で構いません。
「今日、意識して見るポイント」です。
【例:202X年X月X日のデイリーノート】
- 昨日の患者Aさん、今日は歩行時の「立脚後期の股関節伸展」が出るか確認する。
- 新人B君へのフィードバック、昨日は言い過ぎたので今日は傾聴する。
- 空き時間に「TKAの術後プロトコル」のファイルをObsidianで整理する。
昼:現場での「キャプチャ(捕獲)」
臨床が始まったら、Obsidianのことは忘れてください。
現場は「アナログ」の出番です。
ポケットのメモ帳、スマホの音声入力、電子カルテの考察欄を駆使して、とにかく情報を拾い集めます。
【ここでの唯一のルール】
「判断しないこと」です。
「これって重要なのかな?」「間違ってるかな?」と考える前に、メモに残してください。 選別は夜やればいいのです。
現場では、自分の中に浮かんだ「違和感」や「疑問」を、一文字でも多く狩り獲ることに集中してください。
夜:情報の「リンク」と「供養」
帰宅後(または退勤前の15分)、ここが「第2の脳」を育てるゴールデンタイムです。
昼間に集めた「メモ」や「カルテのコピー」を、Obsidianに転記します。
ただし、絶対にやってはいけないことがあります。
それは「清書して満足すること」です。
以下の手順で、知識を「リンク」させてください。


今日学んだことが「大腿骨頸部骨折の術後脱臼リスク」なら、それ専用のページを作ります。
昨日のデイリーノートに書くのではなく、独立したページ(新規ファイル)に切り出してください。
ここが最重要です。 新しく作ったページの中に、過去に作ったページへのリンク([[ ]]で囲む)を最低一つは埋め込んでください。
「脱臼リスクは、[[アプローチ方法]] にも影響するな」 「そういえば、[[人工股関節全置換術(THA)]] の患者さんとも共通点があるな」
こうしてリンクを貼る瞬間、あなたの脳内で知識同士が繋がり、記憶に強烈に焼き付きます。
調べて書いていて、「あれ、ここよく分からないな」と思うことが必ず出てきます。 そこで止まってはいけません。
#未解決 というタグをつけて、そのまま放置してください。
タグをつけて放置しておくと、1ヶ月後くらいに別の本を読んでいる時に「あ!これあの時の答えだ!」と繋がる瞬間が来ます。
「分からないことを、分からないまま保存できる」のが、デジタル管理の最大のメリットです。
ノートの作り方を変えたら、次は「効率的なインプット方法」自体を見直してみましょう。
新人が最短で成長するためのロードマップはこちらです。


まとめ
ここまで、アナログとデジタルを組み合わせた知識管理術を紹介してきました。
私たちの仕事は「iPadを使いこなすこと」ではなく、 「目の前の患者さんを良くすること」です。
- 脳を「記憶」に使うな:
- 覚えることは「第2の脳(Obsidian)」に丸投げしてください。
- 脳を「臨床」に使え:
- 脳の容量を空けることで初めて、私たちは患者さんの微細な変化に気づくことができます。
- 現場はアナログ、管理はデジタル:
- 臨床中はメモ帳(使い捨て)で戦い、帰宅後にデジタル(資産)へ統合するサイクルを回しましょう。
まずはここから始めてください。
今日の臨床で書いた「ぐちゃぐちゃのメモ」を、捨てずに持ち帰る。
その中の「たった1行」でいいので、スマホやPCに入力(保存)してから寝る。
「きれいなノート作り」は今日で卒業して、情報を集めて、スマートに管理する。
明日からは、軽くなった脳で、全力で患者さんと向き合ってください。









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