「毎日ヘトヘトで帰宅して、参考書を開いたまま寝落ちしてしまう…」 「先輩の臨床や会話についていけず、自分が情けない…」
そんなふうに、自分を責めていませんか?
あなたが「ついていけない」と感じる原因は、あなたの能力不足ではありません。
勉強についていけないと感じるのは、「学生時代のやり方(100点満点主義)」を捨てきれていないことが最大の原因です。
私は理学療法士として、多くの新人を指導し、採用にも携わってきました。
その経験から断言しますが、現場で長く生き残る新人は、勉強ができる人ではなく「捨てるのが上手い人」です。
本記事では、真面目なあなたが今すぐ捨てるべき「無駄な努力」と、臨床1年目を乗り切るための「生存戦略」を解説します。
これを読めば、「全部やらなきゃ」という呪いが解け、明日から「これだけやればOK」という明確な自信を持って臨床に立てるようになります。
- 勉強についていけない「本当の理由」と、自分を責めなくていい根拠
- 「捨てていい勉強」と「死守すべき勉強」の境界線
- 激務の中でも知識を定着させる「1日1個」の具体的な勉強テクニック
なぜ、真面目な新人ほど「勉強についていけない」と思ってしまうのか?

あなたが今の状況に陥っているのは、決してあなたが「怠け者」だからではありません。
真面目すぎるがゆえに、脳の仕組みを無視した「構造的な無理ゲー」を自分に課してしまっているからです。
その「3つの原因」を紐解きます。
脳の「決断疲れ」が限界を超えているから
結論から言うと、帰宅後に勉強できないのは「甘え」ではなく、脳の「ガス欠」です。
人間が1日にできる「決断」の数は決まっています。
新人の臨床は、ベテランが無意識に行う動作(介助位置、言葉遣い、カルテなど)の全てにおいて、意識的な「決断」を迫られます。
あなたは夕方の時点で、体力を全て使い切っている状態です。
たとえるなら、「免許取り立ての運転」と同じで、アクセル、ブレーキ、標識確認で手一杯で、助手席の会話なんて耳に入らないはずです。
PTLab運営極限状態で「参考書を読め」と言われても、効果的な学習にはなりません
学校と臨床の「ルール」が逆転しているから
あなたはまだ、「正解(100点)」を探す学生時代のルールのまま、臨床という別のゲームをプレイしていませんか?
| 学校・実習 | 臨床現場 | |
| 思考法 | 演繹法(教科書通りか?) | 帰納法(目の前の患者が全て) |
| ゴール | 時間をかけて100点を出す | 60点でも「素早く」報告する |
| 評価 | 完璧な考察 | 安全とスピード |
同期と比較して自滅しているから
メンタルを削る最大の要因は、「同期」と比較することによる疲弊です。
SNSや勉強会で目立つ「意識高い同期」を見て落ち込んでいませんか?
- あなたが見ている同期:
- 「昨日2時間勉強した!」という発言
- 見えていない現実:
- 実は机に座っていただけかもしれない。あるいは、リスク管理が雑かもしれない。



見えない部分を想像して、自分を悲観的にみるのはやめましょう。
比較で消耗するエネルギーがあるなら、それは「睡眠」に使ってください。
1年目の「捨てていい勉強」と「やるべき勉強」


具体的に「何を勉強し、何を捨てるべきか」。
結論から言うと、新人PTにおいて大切なことは「治せるかどうか」ではありません。
「事故を起こさないかどうか」です。
【捨てる】治すための技術
残酷な事実を言いますが、1年目で劇的に患者さんを治せるPTなんていません。
先輩も、新人にそこまでの「神業」は期待していません。
- なぜ捨てていいのか?
-
「どうやって治そう?」と悩むから辛くなります。
「治せなくても、悪くしなければ合格」。
難解な徒手療法や、複雑な運動連鎖の知識は、3年目以降の楽しみに取っておきましょう。
【捨てる】「稀な疾患」と「細かい解剖学」
教科書の隅に載っているような知識や、マイナーな筋の起始停止を必死に覚え直す必要はありません。
今の時代、分からなければその場でGoogle検索すればいいのです。
- なぜ捨てていいのか?
-
臨床の8割は、大腿骨頚部骨折、脳卒中、肺炎などのメジャーな疾患と、主要な大筋群の知識で回ります。
「出会った時に調べる」。これで十分間に合います。
【死守する】これだけはやれ。「リスク管理」と「禁忌」
逆に、ここだけは絶対に妥協してはいけません。
先輩が唯一、本気で怒るのは「患者さんを危険に晒した時」だけです。
以下の3点は、勉強机に向かう時の最優先事項として、ノートに書き殴ってください。
- バイタルサインの基準値(中止基準)
- 「血圧がいくつになったら運動中止か?」即答できますか?
- オペ後の禁忌動作(脱臼肢位など)
- THA(人工股関節全置換術)後の禁忌肢位は?
- 転倒リスクの予測
- 「この患者さんは、どの瞬間に転びそうか?」



治せなくても怒られませんが、事故を起こせば信頼を一発で失います
これが、臨床1年目を生き残るための最重要ルールです。
| 優先度 | 項目 | アクション |
| 高(絶対やる) | リスク管理・禁忌・バイタル | 今すぐ暗記する。 カンペを作って常備する。 |
| 中(必要) | メジャーな疾患・主要な筋肉 | 患者さんを担当した時に、その都度調べる。 |
| 低(捨てる) | 治療手技・細かい解剖・稀な疾患 | 3年目以降に回す。今は忘れていい。 |
【実践編】明日から楽になる「努力の捨て方」
「勉強しなきゃ」と思って机に向かうものの、何から手をつけていいか分からない。
そんなあなたに、明日から即実践できる3つのテクニックを紹介します。
テクニック①:ノートは「綺麗にまとめる」な、「カンペ」を作れ


学生時代のように、色ペンを使って綺麗にまとめる「自己満足ノート」は今すぐ捨ててください。
現場で必要なのは、教科書ではなく、即座に見返せる「アンチョコ(カンニングペーパー)」です。
- 作り方:
- ポケットに入るメモ帳を用意する。
- 書くこと: 「事実」と「基準」だけを殴り書きする。
- 「THA後脱臼肢位 = 屈曲・内転・内旋」
- 「収縮期血圧180以上 = 運動中止」
これをお守り代わりに持っておくだけで、現場で頭が真っ白になった時の「命綱」になります。
テクニック②:「1日1個」だけ持ち帰る


「今日は何も勉強できなかった…」と落ち込む必要はありません。
その日担当した患者さんで分からなかったことを、「1つだけ」調べてください。
- 悪い例: 「脳卒中のリハビリについて全部調べる」(終わらない・覚えられない)
- 良い例: 「大腿直筋の触診位置だけ確認した」(5分で終わる・忘れない)
「1日1個」で十分です。
塵も積もれば山となり、1日1個でも年間で240個の知識になります。



これを3年続ければ、何もしなかった同期に圧倒的な差をつけることができます。
テクニック③:分からないことは「調べ方」を先輩に聞く


分からないことがあった時、一人で分厚い専門書と格闘していませんか?
それは時間の無駄です。
優秀な先輩を「検索エンジン」として使いましょう。
ただし、「答え」を直接聞くのはNGです(「自分で調べろ」と怒られます)。
以下のように質問してください。
- 魔法の質問フレーズ:



「この疾患について勉強したいのですが、〇〇先輩が使っている分かりやすい本はありますか?」
-
- メリット1: 「勉強する意欲」をアピールできる。
- メリット2: 先輩が認める「良質な情報源(答えへの近道)」を教えてもらえる。



可愛がられながら最短距離で成長するための高等テクニックです。
それでも「勉強しなきゃ」と焦ってしまうあなたへ
ここまで「捨てろ」「休め」と言われても、心のどこかで「でも、やっぱり不安だ…」と感じていませんか?
その感情こそが、あなたが将来有望な理学療法士である何よりの証明です。
「焦り」は、あなたが優秀な証拠
「勉強しなくていい」と言われても不安になるのはなぜでしょうか?
それは、あなたが心の底で「患者さんを良くしたい」「恥ずかしくない仕事をしたい」と本気で願っているからです。
やる気のない人は、そもそも焦りすら感じませんし、わざわざこんな記事を検索してまで読もうとしません。
あなたの今の苦しみは、「理想の高さ」と「現実の忙しさ」のギャップから生まれている「成長痛」のようなものです。
- ダメな新人: 「分からなくてもバレなきゃいいや」と考え、勉強しないことに罪悪感がない。
- あなた: 「もっと知識が必要だ」と自分を責め、勉強できないことに強い罪悪感がある。
あなたは既に心構えの時点で合格しています。
その責任感さえあれば、今は知識が追いついていなくても、将来必ず良いセラピストになります。
成長には「正しい順番」がある


焦る気持ちは大切に取っておいてください。
ですが、順番を間違えてはいけません。
溺れかけている時に「クロールのフォーム」を練習する人はいませんよね?
まずは陸に上がって呼吸を整えるのが先決です。
| フェーズ | あなたの状態 | やるべきこと |
| Step 1(今) | 生存フェーズ | 情報のトリアージ。 事故を起こさず、潰れないこと。 |
| Step 2(未来) | 定着フェーズ | 業務に慣れ、心に余裕を作る。1日1個の積み上げ。 |
| Step 3(理想) | 成長フェーズ | 効率的な学習法を取り入れ、一気に知識を増やす。 |
今のあなたは「Step 1」にいます。
ここで無理をして「Step 3」のことをやろうとするから、息継ぎができなくて苦しいのです。
まずは生存を確保する。成長するのは、呼吸が整ってからで十分間に合います。
余裕ができたら試してほしい「攻めの勉強法」
もし、数ヶ月後に業務に慣れ、「今日は少し余力があるな」「もう少し効率よく学びたいな」と思える日が来たら、その時こそ、あなたが温存しておいた「焦り(成長意欲)」を解放するタイミングです。
今は無理に読む必要はありません。
「いつか余裕ができたら、これをやればいいんだ」というお守りとして、この記事をブックマークだけしておいてください。


どうしても「辛い」なら、環境を変えるのも戦略
最後に、最も重要なことを伝えます。 もしあなたが「死ぬほど勉強しているのに、毎日怒鳴られる」「休日も強制参加の勉強会がある」という状況にいるなら、疑うべきは自分ではなく**「環境」**です。
その職場は「正常」ですか?危険度チェック
勉強についていけないと悩む新人の中には、明らかに「許容範囲を超えたブラックな環境」で消耗しているケースが多々あります。
以下のリストを確認して、当てはまるなら、それは「指導」ではなく「洗脳」や「搾取」に近い状態です。
⚠️ 危険な職場の特徴チェックリスト
- 業務終了後の勉強会への参加が「強制」されている(残業代が出ない)
- 休日に行われる外部セミナーへの参加を強要される
- 先輩に質問しても「自分で調べろ」と突き放されるだけで、答えを教えてくれない
- 「新人のくせに帰るのか」という無言(または有言)の圧力がある
- 人格を否定するような言葉(「辞めちまえ」「邪魔だ」)を浴びせられる
- 業務終了後の勉強会への参加が「強制」されている(残業代が出ない)
- 休日に行われる外部セミナーへの参加を強要される
- 先輩に質問しても「自分で調べろ」と突き放されるだけで、答えを教えてくれない
- 「新人のくせに帰るのか」という圧力がある
- 人格を否定するような言葉(「辞めちまえ」「邪魔だ」)を浴びせられる
もし1つでも当てはまるなら、あなたが勉強についていけないのは、環境が劣悪すぎて学習するリソースを奪われているからかもしれません。
この状態で「自分の努力不足だ」と責めるのは、やめましょう。
「逃げる」のではなく「戦略的撤退」である
心身を壊してまで、その職場にしがみつく必要は1ミリもありません。
理学療法士の資格さえあれば、職場はいくらでも選べます。
今の職場を辞めること = 「逃げ(負け)」
そう思い込んでいませんか?
これ以上ダメージを受ける前に、自分を守るために場所を変える、これは「戦略的撤退」であり、立派な生存戦略の一つです。
「どうしても無理なら、場所を変えればいい」。
その選択肢(カード)をポケットに入れておくだけで、精神的な追い詰められ方は劇的に変わります。
まとめ
勉強についていけないと悩む、真面目なあなたへ。
最後に、これだけは伝えておきたいことがあります。
- 脳のキャパは業務で埋まっている。まずはそれを認めること。
- 「治す勉強」は捨てていい。「リスク管理」だけ死守すること。
- 1日1個の「カンペ」作りで、あなたは確実に成長していること。
まずは自分に対するハードルを極限まで下げましょう。
「事故を起こさず、無事に家に帰す」。 これができれば、1年目は100点満点です。
あなたのその「真面目さ」さえあれば、必ず良い理学療法士になれます。

コメント